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横浜地方裁判所 昭和31年(カ)1号 決定

再審申立人 金箱真吉

主文

本件再審申立を棄却する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

本件再審申立の要旨は、

「(一) 債権者株式会社静神相互銀行、債務者申立人間の当庁昭和二九年(ケ)第四一号不動産任意競売事件について、昭和三一年二月一七日藤沢市鵠沼五三四七番地沼田権次郎が別紙〈省略〉表示の不動産に対し四〇一、〇〇〇円の競買申出をし、同年二月二二日同人のため競落許可決定がなされ、右決定は、即時抗告期間の徒過により確定するに至つた。

(二) しかしながら、右沼田権次郎は、本件不動産上の一番抵当権者であつたが、前記競売期日より前である昭和三〇年一月三日死亡しており、その相続人の一人である沼田英子が前記競買申出に関係していることが判明したから、民事訴訟法第六八一条第三項、第四二九条、第四二〇条第一項第三号により再審の申立をする。」

というのである。

(当裁判所の判断)

前記競売事件の記録によれば、申立人主張の(一)の事実が認められ、また申立人提出の戸籍謄本によれば、藤沢市鵠沼五三四七番地沼田権次郎は、前記競売期日より前である昭和三〇年一月三日すでに死亡していることが認められるので、何人かが死者である沼田権次郎の名前を使つて競買の申出をし、最高価競買人となり、当庁から競落許可決定を受けたものと認められる。

競落許可決定は、その決定に表示された宛名人(本件では、死者である沼田権次郎)に対し、又はその者のために発せられるのであるから、本件において実際上競買人として行動し、保証を立てた者が何人であつても、その者が右競落許可決定の効力を受けることはないものといわなければならない。

仮に競落許可決定の名宛人が決定当時すでに死亡している場合でも、右決定は、その相続人に対して効力を有すると解し得られる場合があるとしても、これが適用を見るのは、競売期日に生存している人が適式に最高価競買人となつたが、競落期日までに死亡した場合に限られると解すべきものであるから、本件のように何人かが死者の名義を使つて競落許可決定を受けた場合にまで適用せられるべきものではない。

そうすると、死者に対してされた本件競落許可決定の効力はどうかということになるが、競落許可決定の名宛人が死者である以上、その形成的効力を発揮することは不能なのであるから、右決定は、全くの空振りの裁判として当然無効というべきである。

以上のとおり本件競落許可決定は、再審申立による取消をまたず当然無効であるから、これに対する再審申立は許されないというべきである。

従つて、本件申立は理由がないからこれを棄却し、申立費用は、申立人の負担とすべきものである。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚正夫)

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